スマートフォンの通知をチェックする。メールを返信する。SNSをスクロールする。音楽を聴きながら記事を読む。テレビを背景にしてゲームをする—現代人の日常は、絶え間ない「何かをしている」状態で満たされています。
しかし、あなたは最後に「何もしていない」時間を過ごしたのはいつですか？何も見ず、何も聞かず、何も行わず、ただそこに在るだけの時間。それは驚くほど貴重で、そして驚くほど難しい体験かもしれません。
多くの人が「何もしない」ことに罪悪感や不安を感じます。それは「時間の無駄遣い」「怠惰」「非生産的」といったレッテルを貼られることへの恐れなのかもしれません。また、絶え間ない刺激に慣れた脳は、その刺激が途絶えると、奇妙な空虚感や焦燥感を覚えるようになっています。
しかし、この「何もしない」時間こそ、実は創造性や精神的回復力の源泉となりうるものです。科学的研究によれば、脳はいわゆる「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる状態で、重要な処理を行っています。記憶の整理、感情の処理、創造的なアイデアの生成—これらは、外部からの刺激がない「空白の時間」に最も活発に行われるのです。
歴史上の偉大な思想家や芸術家の多くが、日々の瞑想や散歩、あるいは単なる「ぼんやりとした時間」を大切にしてきたことは偶然ではありません。アイザック・ニュートンはリンゴが落ちるのを眺めていた時に重力の法則を思いついたと言われていますし、アインシュタインも思索の時間を重視していました。
「何もしない」ことを実践するのは簡単ではありません。まずは短い時間から始めてみましょう。五分間、すべての電子機器を離れ、何も計画せず、何も達成しようとせず、ただ存在することを許してみる。その時間を徐々に延ばしていくことで、「何もしない」という贅沢な技術を取り戻していくのです。
忙しさが美徳とされる社会において、「何もしない」時間を確保することは、ある意味で革命的な行為かもしれません。それは生産性向上のための手段としてではなく、ただ生きることの本質に触れるための、かけがえのない時間として。
